同棲の悩み

８時３０分も過ぎたかと思う頃、私は電車に乗り込み周りをキョロキョ
ロと見回した後、深いため息をついた。そして、つい５分ほど前私が改
札を通るのを、笑顔で見送っていた可愛い彼女を少しばかり怨みつつ、
それ以上にハングリー精神を忘れた自分を情けなく思った。

私は現在、彼女と同棲中である。しかも、彼女は風俗嬢で、金の無い無
職の私は、いつも彼女に食べさせてもらっている。つまりは、ヒモとで
も言うべきか。ヒモにつかまる女というのは、極度の寂しがり屋が多い
らしく、彼女もその例外に漏れない。私から四六時中離れようとせず、
週に３・４度の夜の仕事のある数時間だけ私を解放してくれる。そんな
にピタッリくっ付かれては、私のナンパ＆他の女とのデートができない
ではないか。実際３ヶ月前までは３人の女子高生と付き合いながら、他
にも色々と楽しんでいたというのに、現在は彼女一人となり、ナンパで
番号を得た女の子とデンワもろくにできないという有様である。

この日は、彼女の仕事があるというので、仕事場まで見送った後ほんの
数時間の間ナンパを楽しもうと思っていたところ、なんと彼女が改札ま
で私の帰宅を見送ると言い出したのである。浮気など全くしない誠実な
男を演じてきたにもかかわらず、彼女は私のナンパを警戒しているらし
く、私が改札を通るのを見届けたいと言って私を困らせたのだ。結局、
私は彼女の根気に負け改札を通り、電車の中に今日のナンパのターゲッ
トを求めたが、周りのオバチャンを見るや否やガックリきたと言う訳で
ある。

しかし、大切なことはこんなことでははい。彼女が邪魔でナンパができ
ないなどと言うのは、単なる言い訳に過ぎないだろう。やる気さえあれ
ば、今日の場合で言えば、別の駅ででも、引き返してでもできたのだ。
もっと重大な問題は、それにもかかわらず、帰宅してしまったことなの
である。私は、ナンパに最も必要なものはハングリー精神であると確信
している。ところが、同棲が始まって以来毎日のごとく、することをし
ている為か、他の女を見てもかなりの上玉でない限り欲情しない身体に
なってしまった。しかも、彼女に情が移ってしまったのだろうか、他の
女を見てトキメクことが無くなってしまっている。なんと、ナンパの原
動力とも言うべきハングリー精神を失ってしまっているではないか。嗚
呼、情けないかな、我がナンパ魂よ。

だが、私はナンパ師を自負する者として、今の体たらくに甘んじる訳に
はいかないのだ。私はこの文章をこの日の反省と為し、同じ過ちを繰り
返さないことを固く誓う。以上、長々と私的な文章に付き合って頂きお
礼を申し上げる。

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